市民協働
イノベーション
エコシステム

インタビュー調査報告

生態系(エコシステム)とは

私たちの暮らしは食料や水の供給、気候の安定など、生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みによって支えられていますが、これらの恵みは「生態系サービス」と呼ばれます。生態系サービスは次の4つから成ります。

  • (供給サービス)食品や水といったものの生産・提供

  • (調整サービス)気候などの制御・調節

  • (文化サービス)レクリエーションなど精神的・文化的利益

  • (基盤サービス)栄養循環や光合成による酸素の供給など、上記3つの基盤となるもの


生態系をアナロジーとするイノベーションエコシステム

この生態系(エコシステム)をビジネスの文脈で使うようになったのが、ビジネスエコシステムやイノベーションエコシステムです。

ビジネスエコシステム:「複数の企業がそれぞれ持てるものを提供し合い、1 つのソリューションにまとめて顧客に提供するコラボレーション」

イノベーションエコシステム:「複数企業や、様々な経済的・社会的要素間で相互作用し、イノベーションが連鎖的に生み出されていくネットワークや場」

(参考文献:ロン・エイドナー、山本冬彦訳、「『コラボレーションのリスク』を読み解くイノベーション・エコシステム」、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー Vol.31 No.8、2006年8月号)


市民協働イノベーションエコシステムの定義

本研究では、自治体が市民協働という概念を活用して、地域から次々とイノベーションを起こすための「市民協働イノベーションエコシステム」を次のように定義します。

市民協働イノベーションエコシステム:「企業・大学、まちづくり団体・NPO、行政などが相互作用することで、イノベーションが連鎖的に生み出されていくネットワークや場」

京都市が全庁的に参加と協働をより一層推進することにより、企業・大学、まちづくり団体・NPOとの間でイノベーションエコシステムを構築・活用することができるようになれば、京都市の未来をつくるイノベーションが次々に起きるような状況を生み出すことができます。



調査目的

京都市の市民協働イノベーションエコシステムを可視化することで、エコシステム内部のプラットフォーマーやキーマン同士の連携を高め、ひいては、戦略的にエコシステムを強化し、また、あらゆるセクター(企業・大学、まちづくり団体・NPO、行政等)がエコシステムを効果的に活用できるようにすることが本調査の目的となります。


調査研究(1):庁内インタビュー

上記の目的を達成するため、まず京都市の庁内で企業・大学、まちづくり団体・NPOなどとの連携が多い部署へのインタビューを行いました。インタビュー先は、次の5部署です。

  • 総合企画局 総合政策室(SDGs・レジリエンス戦略)

  • 文化市民局 地域自治推進室(地域づくり推進/市民活動支援)

  • 産業観光局 地域企業イノベーション推進室(地域企業振興/ソーシャル・イノベーション創出支援/スタートアップ支援)

  • 総合企画局 都市経営戦略室

  • 総合企画局 総合政策室(大学企画/留学生支援/大学連携推進)


これらのインタビューにより、次の大きな発見がありました。

京都市の市民協働イノベーションエコシステムは、「京都市が保有する市民協働イノベーションの場や機会において、経済原理を超えた志を持ったハブ組織・ハブ人財が主体的に力を発揮することによって、イノベーションが連鎖的に生み出されている」ということです。京都市は良い意味でハブ組織・ハブ人財を信頼し、枠組みを超えた提案や活動を支援していました。


市民協働イノベーションエコシステムの調査研究(2):庁外のハブ組織・ハブ人財インタビュー

そこで、京都市の庁内インタビューでハブ組織・ハブ人財として名前の挙がった、次の8回(9名)のインタビューを行いました。(インタビューの詳細はリンク先をご覧ください)


これらのインタビューを通して、ハブ組織・ハブ人財に共通する思想が、世界に類を見ない豊かな市民協働イノベーションエコシステムを支えていることを発見しました。

京都市のハブ組織・ハブ人財は、「地域の多くの企業や人、学生が輝き、活躍すること」を「心の底から希求」していました。京都市には多くのハブ組織が存在するため、一見ばらばらに社会課題に取り組んでいるように見えますが、まさに示し合わせたかのように、「地域の人や組織が輝くことがしたい」と口を揃えました。インタビューを通して、すべてのハブ組織・ハブ人財が「一見遠回りに見えても一人の人が輝くことに労を惜しまない」で、「一人の人の輝きや成長を心の底から喜んでいる」ことに、何度も何度も感動を覚えました。

このような「ハブ組織・ハブ人財のあり方」が、京都市の市民協働イノベーションエコシステムの豊かさを支えているということを確信しました。



京都市を豊かにしている「市民協働イノベーションエコシステム」が提供する、「4つの生態系サービス」

京都市の市民協働イノベーションエコシステムは、企業・事業者,社会起業家,まちづくり団体・NPO,学生などとの多様なタッチポイントをもち、そこに関わる地域の人や組織が輝くための「生態系サービス」を提供しているように見えました。私たちの豊かな暮らしが地球の生態系サービスに支えられているように、京都の市民力の先進性や独自性は、地域コミュニティをフィールドに、市民協働イノベーションエコシステムが提供する、次の4つの生態系サービスに支えられているのではないでしょうか。


市民協働イノベーションエコシステムの4つの生態系サービス

  • (供給サービス)高度な専門知識と活用可能な資源の生産・提供

  • (調整サービス)縦割りを超えた、クロスセクター間の利害調整

  • (文化サービス)コミュニティの持つ文化の伝承と、新結合による創造

  • (基盤サービス)あらゆる世代の人材育成(上記3つの基盤となるもの)


例えば、京都超SDGsコンソーシアムは、SDGsなどの専門知識と、その実践の場の「供給サービス」を担っているように見えます。KOIN・地域企業未来力会議も、地域企業の思いを形にするためのビジネスプロデュース知識の「供給サービス」を担っているように見えます。加えて、その人材育成としての「基盤サービス」を担っています。

市民活動総合センターといきいき市民活動センターは、市民やNPOのあらゆる活動の壁を超えて一緒に協働することを促す、市民にもっとも近いところでの「調整サービス」を担っています。Xsector Kyotoも、思いをもった市民が企業・行政・NPOのセクターを超えてつながるための「調整サービス」と、その人材育成としての「基盤サービス」を担っています。

京都信用金庫 Questionとグローカルセンターは、大学生や地域企業が組み合わさることで、新たなサービスを生み出すための「文化サービス」を担っているように見えます。加えて、その人材育成としての「基盤サービス」を担っています。

京都市ソーシャルイノベーション研究所 (SILK) は、社会イノベーションに取り組む人を増やし、それを応援する人を増やす「基盤サービス」を提供しています。


つまり、京都市の市民協働イノベーションエコシステムは、企業・事業者,社会起業家,まちづくり団体・NPO,学生などに対し、それぞれの対象に応じたハブ組織が、生態系サービスを提供しているのです。このことは、ハブ組織と連携・協力する京都市があらかじめ企図したものではなく、「京都の市民力の真髄であるハブ組織・ハブ人財が共通でもつ思想」がそれを可能にしているのだと思います。

加えて、ここ京都では、長い歴史の中で培われた住民自治の伝統や支え合いの精神に基づき、自治会・町内会その他の地域住民の組織する団体が中心となり、地域コミュニティが形成されてきました。そして、これらの団体の活動が京都の発展に大きく寄与してきました。この京都が誇る地域コミュニティをフィールドとして、市民協働イノベーションエコステムから新たな実践が生み出されていくことは、将来にわたって地域住民が支え合い、安心して快適に暮らすことができるまちの実現に向けて重要な視点になります。



今後の方向性1:市民協働イノベーションエコシステムの構築と発展

京都市は、ハブ組織・ハブ人財のもつ共通の思想によって、豊かな市民協働イノベーションエコシステムを育んでくることができました。また、その生態系サービスによって、市民や地域企業は社会イノベーションについて学び、実践し、「京都市の市民力の文化」を高めてきました

では、市民協働イノベーションエコシステムを意識した場合、何ができるのでしょうか。それはハブ組織・ハブ人財の公式化、正当化です。

現在、それぞれのハブ組織では、自主的に事業や活動の財源を確保して運営している組織もあれば、京都市からの単年度ごとの業務委託や複数年に亘る指定管理業務を受託して運営している組織もあります。市民協働イノベーションエコシステムの継続的な構築、持続可能性を高めていくためには、各ハブ組織における安定的な自主財源の確保(業務の自主性を確立する柔軟な仕組みの構築等)や長期的な契約形態の模索など、市民協働イノベーションエコシステムを構築する役割を公式化、正当化していくことが、生態系サービスの質と量を向上させることにつながるものと考えます。



今後の方向性2:市民協働イノベーションエコシステムの活性化

京都市は、行政として社会課題・地域課題を把握し、また市民をはじめ、様々なセクターの方々とのつながりを持てる立場にあります。市民をはじめ、あらゆるセクターからの相談や自主的な活動への意欲などを適切に支援し、課題とのマッチングやセクター間の連携など、コーディネートする役割も重要となります。市民協働イノベーションエコシステムがより活性化していくよう、多様な人々やセクターで活動するまちづくりのプラットフォームを可視化し、プラットフォーム同士やプラットフォームに所属する人材間の密接かつ効果的な連携の促進が求められると考えます。



今後の方向性3:市民協働イノベーションエコシステムと政策形成

市民協働イノベーションエコシステムを最大活用するためには、ハブ組織の間のネットワーク密度を高めることが重要です。そのためには、ハブ組織同士が横断ネットワークで協力しあえるよう、京都市が「新しい切り口での政策課題」をお題として提供することができるでしょう。もちろん、京都市の庁内が部門横断で取り組む体制も必要になります。今後は、豊かな市民協働イノベーションエコシステムの存在を前提とした、新しい社会課題解決プロジェクトを進めてみることも、有効な活用手法になると考えます。


(本調査事業受託者であるSlow Innovation株式会社と京都市が連携した取組)

例えば「SDGs」や「持続可能な観光」は、京都市がハブ組織の横断ネットワークで取り組んでみる格好のテーマです。そのプロトタイプとして、2020年度の「京都をつなげる30人(第2期)」では、ハブ組織の横断ネットワークで「観光をツールとしたSDGsの推進」に取り組んでいます。2021年度には、「SDGsツーリズム」を切り口に、観光だけではなく、地域の魅力の再発見、地域企業のSDGs推進、多様な働き方の推進など、幅広く「京都のSDGsのあり方」を示す活動ができると考えています。